残業時間に関する判例

 

 労働時間とは「使用者の指揮命令下」のもとで「労働を提供した時間」です。

では、労働時間をタイムカードで管理していた場合、残業時間はどのように算定されるのか。判例をご紹介します。以下のように実態により判断し、取扱いがまちまちである。

 

●三好屋商店事件 東京地判 S63.5.27

   解雇された元従業員が解雇予告手当・在職中の時間外労働手当の支払いを求めた事件

 

 解雇予告手当だけを認めて、時間外労働手当は認められなかった。

 タイムカードの打刻時刻が、労働時間の算定基礎とされなかった例である。

 「就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労時刻とが一致していたと見做すことは無理がある。したがって、結局、従業員である原告についても、タイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ないと見るのが相当である。」

「管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない。」とされたものである。

 

●三晃印刷事件 東京地裁 平成9.3.13

  会社作成の個人別出勤表の労働時間がタイムカードの記録を基に記載されていることなど、タイムカードの記録により従業員の労働時間を把握していたという事実からすると、タイムカードを打刻すべき打刻すべき時刻に関して労使間で特段の取り決めのない本件においては、タイムカードの記録を労働時間として認定する。

 

 解雇予告手当だけを認めて、時間外労働手当は認められなかった。

 タイムカードの打刻時刻が、労働時間の算定基礎とされなかった例である。

 「就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労時刻とが一致していたと見做すことは無理がある。したがって、結局、従業員である原告についても、タイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ないと見るのが相当である。」

「管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない。」とされたものである。

 

●京都福田事件 京都高判 平成元年.2.21
 本社総務課主任の原告5名が、管理職ではないと主張し、割増賃金の支払いを請求した事案。
 

 タイムカードで従業員の労働時間を管理していたと認められ、労働時間として十分正確なものであると認められ、時間外労働賃金と付加金の請求を認めた。
 「タイムカードで従業員の労働時間管理をしていたと認められ、従業員らがタイムカードに
  打刻されている時刻まで全て被告の管理の下で労働をしていると推認されるから、
 タイムカードに打刻されている時間は労働時間として十分正確なものである。」と認めることができると判断された。

 

 

 

 

 


管理監督者についての判例

 【 労働基準法第41条2号の管理監督者とされた判例】

 

●徳州会事件(大阪地判 昭和62.3.31)地位:人事第二課長

 看護師の募集業務において本部や各病院の人事関係職員を指揮命令する権限を与えられ、看護師の採否の決定、配置等労務管理について経営者と一体的な立場にあった。

タイムカードを刻印していたが、実際の労働時間は自由裁量に任されていた。

時間外手当の代わりに責任手当、特別調整手当が支給されていた。

 

●姪浜タクシー事件(福岡地判 平成19.4.26)地位:営業次長

  終業点呼や出庫点呼を通じて、多数の乗務員を直接指導する立場にあった。

B専務からの文書による指示があるとはいえ、原告が乗務員の労務管理をしており、面接、採否に重要な役割であった。取締役、主要な従業員が出席する経営協議会のメンバーであった。

多忙なため自由になる時間は少なかったものの、唯一の上司B専務から指示を受けず、会社への連絡だけで直帰できる。  待遇は、従業員の中で最高額(700万円)

 

●日本ファースト証券事件(大阪地判 平成20年.2.8)

   大阪支店支店長として30名以上の部下を統括する地位で会社全体からみても重要な上位の職責にあった。支店の経営方針、係長以下の人事考課等の職務権限があり、中途採用者について実質的に採否する権限もあった。(新卒は本社決裁)
 係長以下の人事については原告の裁量で決定でき、昇格基準満たす社員の具体的な昇給額決定権もあった。社員の降格・昇給に相当な影響力をもっていた。
  月1回責任者会議に出席
  大阪支店の社員は全員タイムカード管理なし、自己申告制

  原告の出欠の有無や労働時間は報告・管理の対象外月25万円の職責手当。

 職階に応じた給与と併せると賃金は月82万円。部下である店長以下と比べると格段に高い。


 【労働基準法第41条2号の管理監督者が否定された判例】


 ●静岡銀行事件(静岡地判 昭和53.3.28)地位:調査役補

出退勤について厳格な規制を受けており、自己の勤務時間について自由裁量権を全く有していない。部下の人事及びその考課の仕事には関与しておらず、担保管理業務の具体的な内容について上司(部長・調査役・次長)の手足となって部下を指導・育成してきたに過ぎない。銀行の機密事項に関与した機会は一度もない 

 

 ●はるぶ事件(東京地判 平成9.8.1)地位:販売主任(支店)

 過去に営業所長を経験し支店長会議に出席することもあったが、支店営業方針の決定権限はなかった。タイムカードにより厳格な勤怠管理を受けており、支店販売課長に対する指揮命令権限をもっていたとは認められない。

 

●東建ジオテック事件(東京地判 平成14.3.28)地位:次長、課長、課長補佐、係長(支店)

 技術部門の所属、現場で指揮監督をしつつ地質調査をしており、管理職会議で意見具申の機会はあるものの、経営方針に関する意思決定には関与していなかった。   
 一般従業員と同様に勤務時間を管理され、自由裁量に委ねられていなかった。係長以上が、前従原告の収入が高額なのは年功序列的な賃金制度の結果であり、係長以上が、従業員の過半数を超えている。

 

●育英社事件(札幌地判 平成14.4.18)地位:営業課長(本部)

 会社の営業方針等を決定する経営企画会議に参加していたが、この会議は社長への諮問機関に過ぎず、経営への参賀を示すものでない。出退勤についてタイムカードへの記録が求められ、自己裁量の余地はなく、給与等の待遇も一般従業員と比較してそれほど高いとはいえない。