最近、社長や管理職の方から若者や部下への指導や叱り方で、悩んで相談をうけることが多くなりました。そこで、1970年代にアメリカで始まった、怒りの感情をマネージメントする心理トレーニング法の「アンガ―マネジメント」を紹介したいと思います。 ~パワハラ防止のためのアンガ―マネジメント入門 / 小林浩志著~から
経営者、政治家、教師、弁護士、スポーツ選手等様々な職業の人たちがこの技術を習得しています。怒りの感情をマネジメントするとは、怒らなくなることではなくて、怒りの感情と上手に付き合うことを意味しています。我を忘れてしまうほど怒ったり、いつまでもイライラをリセットできなかったりすることが問題行動へと派生することが多いので、怒りの感情と上手に付き合うことが求められているのです。
たとえば2006年ワールドカップ・ドイツ大会、イタリア対フランスの決勝戦で、フランス代表のジダン選手が、イタリア代表のマテラッツィ選手へのヅ頭突きにより退場となったシーンを覚えてられる方も多いでしょう。多分、何らかの耐えがたい侮辱発言があり、その挑発行為に反射的に怒ってしまったものと思われます。
抗議したい気持ちは理解できますし、耐えがたく許せない気持ちも当然です。しかし、抗議行動に出るよりも、ジダン選手はチームの司令塔の役割を冷静に全うすることの方が優先順位が高かったといえます。アンガ―マネジメントでは「目的、優先順位、方法」を考えます。ジダン選手が、今、自分がこのピッチ上にいる目的はフランス国を優勝に導くことでした。抗議の方法が退場に直結する暴力行為ではなく、試合後に文書で正式に抗議する等、適切な方法があったはずで、スポーツの試合では、冷静に感情をコントロールすることもベストなパフォ―マンスにつなげる要因の一つです。
人前で強く怒れば信用や仕事を失います。怒ればどうにかなると思い、強い言葉で説得を試みようとする人がいますが、語気を荒げたところで、相手に真意は伝わりません。むしろ逆効果です。謝罪会見や不祥事会見また政治家などが、逆切れしてその人の信用を損ねたり、組織全体の存続までかかわってくるのは後を絶ちません。このように責任ある立場の人が怒りを表すことは得策ではありません。また公の場でなく、一般のビジネスにおける交渉の場でも、怒りの表出によって取引ができなかったり、契約を打ち切られたりすることは日常茶飯事です。怒りにまかせた発言の代償はあまりにも大きいと言えるでしょう。
「怒る」と「叱る」の違いとは、自分の損得の為にが「怒る」であり、相手の成長のためにが「叱る」という行為です。怒るは、自分が困りたくないから、不利益を被りたくないから、腹立たしいからという自分本位のコミュニケーションであり、部下には響かず追いつめてしまいます。
アンガ―マネジメントでは、「他人を変えよう」を目指しません。怒りのマネジメントに取組むうえで、変えるのは「自分自身」です。管理職がキレなくなれば、組織内から殺伐感や恐怖感が消え、部下が自発的、能動的に動くようになって、チーム力が向上することもあるでしょう。「潜在意識の法則」で著名なジョセフ・マーフィー氏は「怒り、憎しみは心の毒です」と述べています。
緊急に注意を向けたいときは「激しく大きな声で」は効果はあるが、根本から行動を改めさせたいときは「冷静に伝えること」が必要です。渋谷駅でのDJポリスの巧みな誘導は記憶に残っている方もいると思います。「皆さんは12番目の選手です」「怖い顔をしたお巡りさん。皆さんが憎くてやっているわけではありません。心の中では出場を喜んでいます」といったメッセージは相手に響き、大きな混乱が避けられました。
指導とは、「教え、導くこと」という言葉の意味に立ち返り、相手に伝「え」るではなく伝「わ」ることを意識しましょう。伝わらなけらば、相手の成長や改善につながりません。感情に任せて怒鳴ることは、相手を傷つけ、自分自身も後悔します。
持続性の怒りは、腹立たしく感じたことをいつまでも忘れられないものです。それは、発生した問題原因にばかり焦点を当て過ぎているからです。アンガ―マネジメントでは、問題の原因追究は重視しません。なぜなら、怒りの原因を追及すると、怒るに至った背景はよみがえり、再び「あんなことを言われた」「こんなことをされた」「あいつだけは許せない」とさらに思いだし怒りの感情が増幅するからです。
解決施行では、「変えられないものもある」という考え方を受け容れなければなりません。
「変えられない」ものは、「過去」と「他人」です。「過去に、あの人」からあんなことを言われたり、されたりしても、その事実はどうにも変わりません。変えられないことに時間を費やしても自分が傷つくばかりです。
怒りは使い方次第で、行動を起こす際の強力なモチベーションとなります。車のエンジンのような役割となり、大きければ大きいほど、目標達成のための原動力となり得ます。
私たちは、怒りの感情をモチベーションへと上手に変換できれば、苦手克服、レベルアップ、真理探究といったように、建設的な目標達成につなげることが可能なのです。怒りを向上心に変えてしまうことは、とても有意義です。怒りは、「建設的に見返す」ためのパワーにしよう。
失恋した女性が「絶対キレイになってやる」と決心したり、不本意な異動を命ぜられたサラリーマンが「ここで絶対に実績をあげてやる」と意気込んだり、会社と折り合いがつかず事業を立ち上げ奮起したり、受験に失敗した学生が「来年は絶対に合格してやる」とリベンジを誓うなど、私たちの身近には怒りをエンジンにしている例がたくさんあります。ノーベル賞受賞者の中村修二さんもその一人です。
昨今、人とのかかわり方が難しい時代の中で、 会社ではパワハラ、学校ではいじめの予防や対策として、今注目されています。
感情をコントロールするのは難しいですが、私も上手く付き合い、負のエネルギーをプラスのエネルギーも変えていければと思います。
皆さまのご参考になれば幸いです。
~パワハラ防止のためのアンガ―マネジメント入門 / 小林浩志~から
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