力石菜穂子
今年も水仙の花が咲きました。
この家に引っ越してきたのは6月のことでした。夏も秋も家の片付けに手一杯で庭をかえり見る余裕もなく、雑草とやぶ蚊の楽園でした。また最初から南天やつつじ、槇の樹が植わっていて、冬には日が当たらない、こじんまりと静かな空間でした。
ところが2月半ばころ、苔の生えた地面から次々と葉っぱが出てきたと思ったら、水仙が先頭をきっていろんな花が次々と咲きました。地味だと思っていた庭に、春のサプライズが隠れていたのです。
古い賃貸住宅には、これまで何組もの家族が暮らしていたと思います。浴室や階段には手すりが取り付けられ、高齢の方の気配も感じます。一階の和室は洋室にリフォームしてありましたが、縁側だった場所の窓を開けたちょうど目の前が、球根の隠れ場所になっていました。
どんな人が暮らしていたのか、なぜこの家を離れていったのか、それはわかりません。ただ花を見ていると、誰かがこの庭を大切にしたことが伝わってきて、今年も咲きましたよとお礼を言いたくなります。
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