〔働き方改革の背景〕
研修会や講演会、専門書籍や月刊誌等を通じ、私たち社会保険労務士は、「働き方改革」を目にしない日はありません。労働法の70年ぶりの大改革といわれ、現役で働いている私たちには、これ以上の改革はもう生涯ないだろうと言われています。その背景と方向性を大まかにお伝えしたいと思います。
今後の日本の大きな問題は、人口減少です。日本の人口は、現在1億2,709万人です。過去はと言いますと、昭和20年で7,215万人、明治初期は3,500万人でした。
将来は、50年後8,800万人、約100年後は5,000万人と現在の半数と試算されています。
少子化の進行と人口減少社会が到来します。このままでは人手不足、国力の低下は避けられないとして、「働き方改革」を推し進めています。
高齢者や女性等働き手を増やし、出生率の上昇、労働生産性の改善を目指すために、労働法が改正されます。ここを押させていただきますと、労働法の改正が読み解けます。
それを実現するために多様化を認め、非正規雇用の処遇改善、長時間労働の是正、子育て・介護・病気等との両立、高齢者の就業促進、外国人材の受け入れなど、柔軟な働きやすい環境整備を目指します。
〔労働基準法・労働時間等設定改善法関連〕
その実現可能にしていくための課題が、①長時間労働の解消、②正社員と非正規労働の格差是正、③高齢者の雇用促進の3つです。
① については以下の8つです
1. 時間外労働の上限規制が導入されます!原則月45時間、年360時間が上限です。
特別な事情のある場合、複数月平均80時間(休日労働含む)又は年720時間及び単月100時間が上限となります。
2. 年5日有給休暇の取得(企業に義務づけられる)
従来は労働者が自ら休暇を申し出る
↓
改正後は使用者が労働者の希望を聞く
年5日は取得させる
3. 月60時間超残業の割増賃金引き上げ
1.25⇒1.50へ
4.「フレックスタイム制」の拡充
清算期間の上限を1か月⇒3か月
5.「高度プロフェッショナル制度」が創設されました。
金融商品の開発・アナリスト・コンサルタント・研修開発など年収1,075万円以上が対象者となり、出社・退社時間を自由に自分で決めるため、残業・休日出勤等支払いは除外となります。
6. 使用者が労働時間を客観的に把握することが求められます。
健康管理の観点から、労働者の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握するよう法律で義務付けられました。
7. 産業医・産業保健機能が強化されました。産業医は、労働者数50人以上の事業所において選任義務があります。
8.「勤務間インターバル制度」の導入が求められます。(努力義務)
1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間を確保する。
例えば、インターバルを11時間に設定
夜11時に終業⇒11時間後、翌朝10時
・朝10時に出社し、終業時刻を1時間 ずらす。
・朝10時に出社し、9時から勤務していたものとみなし、通常通り退社。
②については、以下の通りです。
9.正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差が禁止されます!同一労働同一賃金
パート・有期雇用等〕
社員とパート等の職務内容・配置の変更範囲などを比較し、同一であれば賞与・手当は(皆勤手当・役職手当・通勤手当・特殊作業手当・地域手当・食事手当等)同一の支給を行わなければならない。
しかし、責任の度合いなどが異なれば同一ではないとみなされます。また、使用者は労働者に対し説明義務があります。
〔労働者派遣法改正〕
派遣元が、派遣労働者の待遇を検討決定します。
派遣先は、比較対象労働者の賃金等処遇に関する情報を派遣元に提供しなければなりません。情報提供がない場合、労働者派遣契約は締結できません。
〔年次有給休暇〕
以上の中で事業所様が早急に考える必要があるのは、2の有給休暇です。
年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが、使用者の義務となります。中小企業も含め今年4月1日から施行されます。
先ずは、年次有給休暇の管理簿を作成したり、整理しましょう。様式はダウンロードできますので、お使いください。
使用者が、面談や計画表の提出、メールなどの方法により、有給休暇の希望を聴き、労働者の意見を尊重し、使用者が年5日取得時季を指定します。
個別での対応が難しい場合は、「計画付与」という方法もあります。全員一斉に休暇を消化する方法です。
①夏季・年末年始に計画的に付与し、大型連休とする。
特別休暇 8月13日から15日
計画付与 8月10日・16日
② 祝日の間の飛び石をブリッジホリーディとし、連休を設けます。
3月21日(祝日)
3月22日(金)従来は出勤日⇒計画付与
3月23日(土)
3月24日(日)
③ アニバーサリー休暇を設けます。
本人や家族の誕生日、結婚記念日などをアニバーサリー休暇とし、連続する3日を個人別付加方式で付与する。
すでに計画付与を5日以上導入されている事業所様は、法的にはクリアできています。個別で有給休暇が取りやすくなるよう促進されますようよろしくお願いいたします。
導入については、就業規則の改定、労使協定が必要になる場合がありますので、申しつけください。
〔残業の上限規制など施行日〕
残業の上限規制は、来年4月からの施行です。自社が現状どのくらいの残業や休日出勤をしているのかを精査し、対策を立てる必要があります。労働者派遣法も来年4月から施行されます。
また、正社員とパートの格差は、2年後の平成33年までには是正されなければなりません。手当等を見直し準備しておく必要があります。
〔働き方改革の重要性〕
平成29年就業構造基本調査によりますと、最近の離職理由は「収入が少なかったから」より、「労働条件悪かったから」が最も多くなっています。
収入が多くても休日が少なく残業が多いよりも、多少収入が下がっても休日が多く残業が少なく有給休暇も取得しやすい、福利厚生が手厚いなどの方が定着率が高いことが分かっています。働くだけではなく余暇も充実させたいという人が多いのが現状でしょう。
法律遵守はもちろんですが、優秀な人材確保し、業績の向上⇒利益増の好循環をつくるためにも「働き方改革」を進める価値はあると思われます。